2012年4月20日金曜日


<緩和策意見> 医療制度改革関連法案は国会通過。

 医療制度関連法案は、国会での衆議院では厚生労働委員会での強行採決。参議院では与野党議員の問題点の指摘や全国の多くの都道府県医師会・郡市医師会員の反対もむなしく与党多数であっさりと可決されてしまいました。
 もちろんこの法案は療養病床の再編の問題だけではなく、これからの日本の医療制度、特に高齢者の医療や国民の医療費負担をどうするのかの重要な法案でしたがどさくさに紛れた感じで参議院を通過しました。
 多くの療養病床関係者の意見は「これまで高齢者が少しでも良い環境で長期療養できるよう努力してきたことは何だったのか、憤りを通り越してあきれている」に尽きると思います。

 しかし、自民党との対決を避けた日本医師会や医系議員の方針は、「この法律は様々な問題を含んでいますが、与党提出であり確実に成立する法案でした。よって、賛成をしたうえで、附帯決議、政省令に問題を解決するための考え方をできるだけ反映させるための発言権を確保しなければならないと考えたからです」とのことで、日医や医系議員は参考人・質問者として問題点は指摘しましたが法案には反対せずに、附帯決議、政省令で解決を図るという戦略をとりました。

 また療養病床再編問題では一番のお膝元の日本療養病床協会も、表立った反対行動や患者さん・家族への署名活動なども行われず、厚労省には日本療養病床協会が了解した改革法案だと捉えられていることは、協会の会員として残念なことです。

 法案が国会を通過した今、現場の声はあまり届かなくなってしまいました。実施の延期を求めていますが7月からの実施は避けられそうになく、そうなると現場の混乱を少しでも避けるため、日医や医系議員の付帯決議や政省令による緩和策の交渉も大切だと思います。これもまだ積極的におこなわれているとは思えません。

特殊疾患療養病棟だけの緩和策
 「仮性球麻痺」ってなに

 6月20日現在、4月に厚労省の発表した「療養病床に係る診療報酬・介護報酬の見直しについて」という通達に、多少の追加と解釈の変更がありました。
 多くの団体や組織から、改善要望が出されている現行の、特殊疾患療養病棟等の対象疾患である「重度肢体不自由者」および「重度意識障害者」はすべて「医療区分2」へ含まれるよう見直すという要望について、
 ○2006 年6 月30 日時点で、特殊疾患療養病棟入院料1 を算定している患者で、神経難病など注)に該当する人は、2008年3月31日までの間、患者分類で本来、医療区分1 もしくは医療区分2に該当する場合でも、医療区分3とみなす
 ○2006 年6 月30 日時点で、特殊疾患療養病棟入院料2 を算定している患者で、神経難病など注)に該当する人は、2008年3月31日までの間、患者分類で本来、医療区分1に該当する場合でも、医療区分2とみなす

 という通達がされ、一定の配慮がなされているものと考えていましたが、本文を見る限り、解釈として6 月30 日時点に入院している患者さんだけなのか、医療区分対象者の新規入院も医療区分2と判定されるのかどうかが不明確ですし、新たに追加された「神経難病等」という注釈も疑問でした。
 その疑問の解釈として、脳卒中で嚥下障害を有する患者さんは、すべて「医療区分2」にすると言うのではなく、神経難病等として新たに追加した「仮性球麻痺」という病名をつければ「医療区分2」に該当しますという経過措置のようですので、根本的な解決策ではありません。

 そしてこの緩和策は特殊疾患療養病棟だけの緩和策ですので、なぜか一般の療養病床には適応されません。

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うつ病のうつ状態

 「仮性球麻痺」について、解りやすく説明されているページがありましたので、一部引用します。詳しくはホームページをご覧ください。

「脳卒中の嚥下障害では,脳の中で嚥下を司っている部分が障害されるために嚥下運動がうまくできなくなると考えられています。脳幹部の延髄には嚥下反射を起こす嚥下中枢があり,延髄より上の脳はその中枢の働きを強化していると考えられています。

 仮性球麻痺は延髄より上の脳幹部や大脳が損傷されたために嚥下の機能がうまく働かなくなった状態を指しています。仮性球麻痺の嚥下反射(ゴクン)は起こりにくいのですが,延髄の嚥下中枢は障害されていないため,一度「ゴクン」が起こればパターンはきれいです。ゼラチンゼリーなどの食べ物はそのまま飲み込める場合もありますが,筋肉の力が低下していて,誤嚥したり,のどに残ってしまうこともあります。外から見ていると「ゴクン」としたので飲み込めたと思ってしまい,次々に食べさせて失敗することもあります。とても注意が必要です。
 高齢者でふつうに生活しているのによくむせる方などにも軽い仮性球麻痺が潜んでいる可能性があります。舌が動かなくて口に入ったものが送り込めず,ぽろぼろこぽす人の多くも仮性球麻痺と思われます。仮性球麻痺では痴呆や失語症,失認症などの高次脳機能障害をしばしば伴います。数の点では仮性球麻痺のほうが球麻痺よりも圧倒的に多く見られますが,重症な患者さんへの対応は両方ともたいへん困難です。」

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特殊疾患療養病棟とは

 ここで特殊疾患療養病棟について簡単に説明しますと、特殊疾患療養病棟とは1と2とあり、
 特殊疾患療養病棟1は、入院患者のおおむね8割以上が脊髄損傷等の重度障害者、重度の意識障害者、筋ジストロフィー患者又は難病患者等の病棟です。
 これに対して特殊疾患療養病棟2は入院患者のおおむね8割以上が重度の肢体不自由児(者)等の重度の障害者の病棟であり、重度の肢体不自由とは下記のように書かれています。
「当該病棟の入院患者数の概ね8割以上が、重度の肢体不自由児(者)(日常生活自立度のランクB以上に限る。)等の重度の障害者である。」

 そして特殊疾患療養病棟では、看護基準や施設基準が厳しく規定されており毎月の利用疾患報告も必要でした。
 看護基準は1日に看護をする看護職員数も20対1(昔の基準で看護職員4:1、看護補助4:1)、そのうち看護職員の2割以上を看護師という基準があります。また施設基準として、その病棟の床面積が患者一人につき16平米以上という縛りがありました。
 診療報酬は病棟単位で決められていたため、この病棟に入院している患者さんは全員同じ点数でした。(4月まで特殊疾患療養病棟1は1980点/日。特殊疾患療養病棟2は1600点/日となっていました)
 その他、この看護基準はクリアーできても、病棟の床面積がクリアーできない場合、特殊疾患入院施設管理加算という病棟があります。この病棟にはおおむね7割以上が重度の肢体不自由児(者)、脊髄損傷等の重度障害者、重度の意識障害者、筋ジストロフィー患者又は神経難病患者等とさ、加算点は1日350点となっていました。いずれも7月には廃止される予定になっています。
 この算定の基準に、重度の肢体不自由者とは日常生活自立度のランクB以上という定義が一般的に認められていました。
 その定義を無視したのが医療区分分類で、今回の混乱の元凶でもあるのです。


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緩和策の影響
 そして、今回の厚労省通達によりどのくらいの割合で医療区分1から医療区分2へ緩和されるかを調べてみました。
 特殊疾患療養病棟入院料を算定している病棟や病床数の実数は明確ではありませんが、日本療養病床協会の調査では当協会に入会している医療機関の、介護医療の割合を見ますと
              病床数 
 療養病床総数       76,336
 介護療養病床       35,458     割合
 医療療養病床       40,878   総数   医療病床に限る
  特殊疾患療養病棟入院料1  3,120   4%   8%
  特殊疾患療養病棟入院料2  3,669   5%      9%
  特殊疾患入院施設管理加算 9,951   13%     24%

 このような割合で、特殊疾患療養病棟入院料を算定している病床は、特殊疾患療養病棟1-2合わせても10%を超えず、この緩和策では療養病床の9割以上が対象となりません。
 また、特殊疾患療養病棟入院料とほぼ同じ看護基準で認定されている特殊疾患入院施設管理加算施設を認めたとしても13%程度であり、厚労省の言う緩和策は一般の医療型療養病床にはほとんど意味を持たないことがわかります。

こんな患者さんが[医療区分1]

 療養病床は神経難病や重度の肢体不自由・意識障害の患者さんだけの長期入院施設ではありません。重度の内臓疾患で、在宅治療継続が困難な患者さんや、定期的な注射や医療処置・検査などの医療が必要で介護施設には入所できない患者さん達もたくさん入院されています。
 これらをすべて、ケアタイムという介護の基準で「医療区分1」に押し込んで「社会的入院」としているのです。何度も書いていますが「医療区分1」というのは国の言う「社会的入院」患者さんであり、国は早急に退院して在宅治療を行うか、介護施設に転院するかが勧められている状態なのです。
 もう一度今回の分類で「医療区分1」に認定された事例を下記に示します、「医療区分1」の診療報酬では、ほとんどの事例で治療の継続も看護も出来ません。「医療区分1」の診療報酬の設定が間違っているのです。こんな事例の患者さんを療養病床からお引き取り願えるのでしょうか。当然介護施設は受け皿にはなりません。
 神経難病などや国の政策ミスによって発病したスモンなどは、医療区分2-3とし、高齢の脳血管障害や内臓疾患は認めないという理由も不明ですし、看護の現場では難病による肢体不自由も、脳卒中後の肢体不自由も看護・治療・処置に変わりないと思います。むしろ治療法の少ない神経難病よりも腎不全・心不全・肝不全などの治療には医療費はかかります。

意識障害の状態
 脳梗塞後遺症・片麻痺・遷延性意識障害
 脳梗塞後遺症・四肢麻痺・遷延性意識障害・経管栄養
 脳出血後遺症・片麻痺・意識障害・嚥下障害・胃瘻
 クモ膜下出血・四肢に強い関節拘縮
 脳腫瘍・意識障害
 頭部外傷後遺症、時々意識消失、けいれん発作


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癌(がん)
 すい臓癌末期状態 経管栄養
 大腸癌術後、人工肛門。
 肝硬変・肝性脳症・アミノレバン注射
 多発性肝がん・腹水貯留
 大腸癌末期で肝転移がある。癌性疼痛はない。
 進行性胃がん・出血性貧血
 疼痛のない癌ターミナル、超低栄養状態。
 多発性転移性肺がん
 前立腺癌で常時バルーンを留置中である。
 慢性骨髄性白血病・貧血
 
内臓疾患・臓器不全
 慢性腎不全・腎性貧血
 連合弁膜症・心不全・寝たきり・浮腫 
 うっ血性心不全、全身浮腫、胸水貯留、全身状態は不安定。
 気管支喘息で突然の容態悪化あり。 
 ペースメーカ植え込み・重症の不整脈
 尿閉で、バルーンカテーテルを留置。
 胆石症・難治性胆管炎を繰り返す
 認知症 胸腹部大動脈瘤
 全盲で食事等自立困難で誤嚥の恐れがあるため、常時見守りが必要

整形外科的疾患 
 疼痛コントロールが必要な慢性関節リウマチ。
 腰椎圧迫骨折のため疼痛管理が必要な患者。
 変形性膝関節症が高度で疼痛管理が必要な患者。
 大腿骨骨折で手術受け、回復期リハ受けたが寝たきり
 ペインコントロールが必要な患者。(悪性腫瘍以外で)
 認知症・大腿骨折後寝たきり
 
糖尿病
 脳梗塞・片麻痺があり独居老人・糖尿病でインスリン療法を行っている
 認知症があり、インスリンの自己管理ができない患者。
 意識障害がありインスリン注射を行っている。

 療養病床には、急性期病院から転院してきた、こんな状態の高齢者がいることは、医療区分の選定委員会のメンバーには理解できていたのでしょうか。そして褥瘡の状態は医療区分2に判定するには、第2度以上に該当する場合若しくは褥創が2か所以上に認められる状態に限るとされています。
褥瘡予防にエアーマットを使い、手厚い看護で褥瘡をつくらない努力をしても、この努力は認められず医療区分は1にしかならないのも疑問です。

療養病床の受け皿として介護施設変換について


 今回の療養病床再編において、国は療養病床から介護保険移行病棟に移行するような提案を行っています。しかし療養病床から老人保健施設に簡単に変換ができるように思っている方も多いと思いますが、これは大変なことです。また各都道府県では各医療圏内の期間内の介護サービスや施設サービスはすでに定められており、定数をオーバーする認定はできないことになっています。これを参酌標準と言いこれは介護保険制度で定められているもので医療制度とは別物です。
 
介護保険移行準備病棟(仮称)
 ○ 具体的には、平成18年6月30日時点において療養病棟入院基本料等を算定している病棟については、医療区分1の患者を6割以上入院させている場合には、平成24年3月31日までの間は、介護老人保健施設等への移行準備計画の提出を要件として、医師、看護職員等の配置が緩和された類型を創設し、療養病棟入院基本料の算定を認めることを検討しています。
 これでは、医師・看護職員の配置は緩和されていますが移行までの間の診療報酬は療養病棟入院基本料の算定となっていますので、医療区分1の報酬がアップされる訳でも、介護保険での要介護4-5の報酬にもならないので何の解決策にもなりません。
 
 そして万一この移行病棟にしたとしても、療養病床と老人保健施設では施設基準としてベッドの専有面積が6.4平米と8平米の差があり、しばらくは6.4平米で認められると思いますが、将来8平米にされた時にはベッド数を削減するか、再び改築工事が必要になります。ころころ変わる厚生行政に付き合って崩壊させられてはたまいません。
 また医師数・看護職員数は緩和策として人数削減が出されていますが、現場では今の看護基準でも人でが足らず、重度の障害者の多い病棟では看護職員を削減することは病院としての看護が守られるかどうか大いに疑問です。
 また医師数の定数も減りますが、病院と介護施設の違いは、病院には必ず当直医が必要で夜間にも医師が常駐していますので、当直医師の基準の無い介護施設とは違います。また看護師も病院では、どの病棟にも看護師・准看護婦の夜勤者はいますが、介護施設では看護の資格のない職員の当直もあります。
 また病院では、薬剤師の配置・放射線技師の配置なども必要ですので、簡単に病床数を減らして、介護施設に転換するわけには行かないのです。

 また療養病床は病院に併設していますので、当然外来部門もあり、外来診療を行っています。自院のかかりつけの患者さんや地元の患者さんの急変時には救急入院や経過観察の入院も行っています。外来部門の無い介護施設とはこの点も大きく違います。
 
もう一つの移行案は

同一病棟内での医療保険と介護保険との混合という案です。


 ○ 同一の療養病棟の中で、経過的に、医療保険と介護保険との双方から給付を受けることができる取扱いを拡大し、「患者の状態に合わせて、より適切な方から給付を受ける」という選択肢も設けることとしています。
 ○ 具体的には、平成21年3月31日までの間については、
 (1) 医療療養病棟の中の一部の病室について、都道府県介護保険事業支援計画におけるサービス見込量の範囲内で介護保険の指定を受けて、介護保険から給付を受けること
 (2) 介護療養型医療施設の病棟の中の一部の病室について、介護保険の指定を外し、医療保険から給付を受けること
 を一定の要件の下に可能とすることを検討しています。

となっていますが、具体的な方法は明らかになっていません。この方法にしても介護保険の対象となれば参酌標準が当然問題になっていますので、どこでも適応されるものではありません。


最後に
 ある掲示板にこんな書き込みがありました。
「今回の療養病棟に関する反対はないのでしょうか?」はもっともです。療養病院が社会的入院や、介護施設でもケアできる層をたくさん抱えていることは解ります。

 この層を介護施設、在宅へ誘導すれば、数千億円が浮くでしょう(介護療養で7400億、医療療養で5000億減、しかし介護施設、在宅介護は増加)。しかし37兆円の医療介護費のうち、数千億円を浮かせる為にこれだけの社会インフラを一気に潰す事が高齢化の更に進む日本の国家国民の為に良いのでしょうか。
 これ等の患者様を安定的にケアできるインフラ整備の目処も立たないまま、これだけの破壊が行われるのは合理的でないし、間違っている、国家的損失であると考えます。」

 マスコミによれば厚労省の試算では、12年度に医療保険で4千億円の費用が抑制される一方、介護保険では約1千億円増が見込まれている。とのこと。
 これだと年間3000億円でしかありません。その為に全国の療養病床が窮地に追い込まれ経営危機で廃院に追い込まれ、地域の医療供給体制が破壊され、行き場を失った患者さん達が急性期病院をたらい回しにされ、高齢の重度の障害者は医療費削減のためには死ねという政策です。そして日本の慢性期治療体制も崩壊するのです。

 今アメリカ資本の民間保険会社の取り扱い金額は7兆円・支払い金額が4兆円、保険会社の利益が3兆円と聞きました。
 入院医療の危機をあおって保険料で3兆円の利益を海外資本に投資する。こんな制度は私も間違っていると思います。

 付帯決議でも政省令による変更でも何でも構いません、こんな激変政策を認めるべきではありません。

 平成18年6月21日 玖珂中央病院 吉岡春紀



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